「・・・そんな馬鹿な話あるか?」
時期は七夕、頃合い見て遊び帰りの馬鹿な物書きが居たので捕まえた。元来なれば神事に尽くすべく立場だが、遊び人の性なのか。それとも、単なる偶然か。何れにしても真面に帰ろうだなんて思わないダメな野郎同士が、妙なところで出会っちまった。
「・・・あんれぇ?宮司さん、そんなところで何してんのさ?」
「あん?こっちは今更になって笹探しだよ。竹であれば割と何処にでも生えるんだが、笹は熊だか猫だか分からねえ奴に持ってかれちまった。」
「マジかよ・・・。いや、相変わらずお前の住むトコって碌なの居ねぇなあ。何時ぞやには馬鹿でかい蝙蝠かと思ったら住人が月夜で喜びのあまりに燥いで空飛び回ってたしさあ・・・。」
「それは俺も知らねえよ。・・・で、どうすんだ?」
「そうさなあ・・・。僕には織姫も無きゃ早起きする理由もない。それに、鬼の居る街ってのも面白いしな。」
「・・・決まりだな。」
馬鹿な物書きとの帰り道。既にこの時には彼の住む街で札遊びを広めた偉大な漫画家が鱶に千切られていた話は出ていた。
「ありゃ・・・海難事故でねえ。」
「・・・そういや、お前の遊びにも関わってたろ?」
「そうさねえ。ただ、状況的には見つかってくれた事を今は安堵する方さ。下手すりゃ誰にも見つからずに忘れた頃に話が出てたまであり得るんだ。」
「・・・そういうもんか?」
「そーいうもんだよ。重要なのは逝ってしまった事よりも遺った物・・・じゃなかったっけ?」
「その通りだよ。・・・まあ、その結果が物書きを自称する遊び人を生んだのは何か情けねぇなぁ・・・?」
「遅れた笹探しするマヌケに言われたくはねえよ。」
それ以外にもくだらない話をしながら帰ってきた。時化た神社とはいえ、短冊と筆記具、それと一応の賽銭箱を置いといて正解だった。賽銭箱を揺すれば思ったより銭の心地よい金属音が響き、笹を見れば見れるぐらいの短冊が掛かっているじゃあないか。
「・・・おい、さっきのパンダの話は嘘か?」
「いんや?・・・ただ、笹見たら何か嫌な顔してた。」
「は?」
「その代わりに筍くれてやったら喜んで持って帰ったよ。丁度・・・肩幅ぐらいのがだねえ。」
「その手のはウチじゃアライグマだよ・・・。なんで居るんだよ。いや、白黒のアレも嫌だけどさあ。」
「まあ、相変わらず碌なのが居ないのは間違いないが、そう矢鱈と黒眼鏡の熊には出会わんよ。」
「あー・・・やられた。マジで性格わりーよなー。」
「でなきゃ鬼を名乗らん。・・・とりあえず、どっかで飯にしようか。」
「そういや何も喰わずに来たしな。」
あとは正直言えばくだらない話しながら、近所の飯屋で適当に済ませて、帰りながらも馬鹿話して寝たってだけの話だ。ただ思い当たるとすれば
「おい、これって丑三つ時って奴だろ!」
「神社来て夜中に縁起の悪い事言ってんじゃねえよ!」
「この時間とかマジで藁人形持ってる奴居るかな!?」
「そんな奴、此処じゃ真面目過ぎて居ねえよ!!」
「え!?此処じゃガリ勉君なの!?」
「そらそうだろ!てめえが空飛んでた蝙蝠人間みてえなのだと・・・スデに行動は終わってる!って奴だぜ!」
「言われてみれば確かに!お前ンとこの近くでカタカタ喋る奴らも言ってたかもしれない!」
って話があった気がするから多分其処までは間違いなく起きてるんだよなあ・・・。
・・・で、昼前ぐらいだったか昼過ぎだったか。酒も呑めない筈の素面だってのに気分だけは二日酔いに近い倦怠感の中で何気なく眺めたら縁起でもない話がとんでくる。
「政府要人が・・・こっちの話にしては杜撰だが、どこの・・・え!?おい、お前ンとこで拙い事が起きた。」
「昨日のパンダかー?・・・どれどれ。」
二人して画面と互いの顔を確認しなおす。全くじゃないにしても割と平和で治安の良い筈のトコで起きた洒落にならん話。
「・・・正気か?」
「正気な奴がやるか?」
「はー・・・。」
物書きが天を仰ぐ。状況を見るに芳しくない。ただ、変な情報が流れるのは分かりきってるので、二人して再確認ぐらいはしてた。
「箇所は此処・・・だよな。」
「あー、その辺だねえ。」
「・・・どう見る?」
「んー・・・無事は祈りたいが、厳しいよな。」
「距離はこの辺でー・・・無理だろコレー。」
「だよなあ・・・。」
「・・・とはいえ、明日を考えるとこっちで様子見ってわけもいかないしなあ。一回、戻って考えるよ。」
「あいよ。・・・まあ、上手くいけば奇跡だな。」
その後の状況を知った時に、最初の文面と同じ言葉が思わず漏れた。暇潰しに家でぼんやりしてる物書きに連絡したら、似たような言葉を彼も言っていた。
「教科書で見た時代の違う話、体験したくはないね。」
「こーいうの、ドラマだけで良いよなあ・・・。」
後の世では言葉一つで終わる話だが、この現実をどう伝えるべきか・・・悩ましいなあ。