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幻冬舎×pixiv「幻冬舎小説新人賞」結果発表
September 29, 2014
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pixiv事務局です。

2014年2月4日(火)~4月30日(水)まで開催された「幻冬舎小説新人賞」では「ミステリー、青春、学園のジャンルに該当する続きが気になりすぎる第1話」をテーマとして、1200以上の小説作品が投稿されました。
先日発表した5作品の中から見事優秀賞に選ばれたのはどの作品でしょうか。

それでは幻冬舎文庫からデビューをつかみとった優秀作品を発表します。

XYZ変』/さち さん

日本中にいる天才奇才の子供を集めた幕乃宮学園。生徒たちに与えられるスーパーエリートの評価は、「XYZ」。この学園に融資している帝都銀行から派遣された二十九歳の陣条は、生徒が犠牲になった事件の解決に乗り出す。

【冒頭抜粋】

「結論から言って、幕乃宮学園が謳っているXYZとは何なのか。実際に居てみて、君はどう思った?」
 それは一週間前、都内のファーストフード店での話。祖国からやってきた上司にそう問われ、俺は内心で少し苛立つ。このクソ上司め。幕乃宮学園の言うXYZとは何か。そんなものは幕乃宮学園のパンフレットにも、公式ホームページにも載っている。少し調べれば解ることだ。それぐらい調べてから日本にきてほしい。この上司は、本当に祖国の諜報機関の役職者なのだろうか。
 落胆の息を吐きながら、俺は頭の中に叩き込んである知識を引っ張り出し、暗唱する。
「要するにXYZとはこの幕乃宮学園の最高の評定。最高の偏差値の事です。幕乃宮学園は幼小中高大一貫教育の一貫校で、次世代を創る人間、いわゆる『次世代派』の人材教育をコンセプトとしており、一般的な学力測定を目的とした試験は行わず、幕乃宮学園の幼稚舎から大学まで一貫した学園独自の定期考査、通称Z試験を行っています。入学試験においてもこのZ試験を採用しており、この試験において最低評定より下の不適合とされれば、そもそもこの学園に入学する事ができません。Z試験の評定はAからZのアルファベット二十六に一つプラスした二十七段階評価となっており、基本的にはAが一番低く、Zが一番高い評定ですが、このZ試験で最も優秀な人間についてはZ評定よりも上の『XYZ』という評定となります。このZ試験で最低の評定であるA評定ですら日本国民全体の百人に一人……つまりはこの幕乃宮学園に入学する事が可能な人間は百人に一人であると言われています。幕乃宮学園とはZ試験の評定を基準として、天才的な人間が集められている場所であり、その中でも『XYZ』の評定を持つ人間は、天才の中の天才、最も『次世代派』な人間という事かと」
 俺がそう答えると、上司はアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら嘆息する。
「最も『次世代派』な人間ねぇ……。そんな綺麗な言葉で流して良い話なのかね。この幕乃宮学園が、例の事変が起きた場所である事は、揺るぎない事実だ」
「あの事変については、あれを起こした彼女が別格なだけだと思いますよ。幕乃宮学園は、たまたま舞台となっただけ。可能性の話しか出来ませんがね。幕乃宮学園は普通の学園です。彼女は彼女であり、別に舞台が幕乃宮学園でなくても、仮に日本でなかったとしても、全く同じ事変を起こしていたものと考えます」
「ふむ。確かに彼女が別格だったというのに異論はないがね。……ところで、君はその幕乃宮学園の入学試験に合格し潜入活動をしてる訳だが、その独自の定期考査、Z試験とはどんなものだった? 君の率直な感想を聞きたい」
「そうですね。……正直、祖国の情報機関員適正試験を彷彿させるような――――」
 俺が言葉を紡いでいたその最中である。突然、俺のスマートフォンが甲高い音を発した。スマートフォンの画面を確認すると、一通のメールを受信していた。シンパからのメールである。本文は非常に短いもので、今夜夕飯どっか食いにいかね? であった。これは俺とシンパと間で決めてあったある種の合言葉。特高警察がそっちに向かっているから逃げろ、という合図である。
「特高に気づかれた様です」
 そう俺が短く告げると、上司は面倒くさそうな様子で椅子から腰をあげた。
「この国の特高警察は戦後GHQに潰されたと聞いているが。……まぁいい、ではまた会おう。ドジって死ぬなよ」
 俺は鼻先で笑う。
「こんな平和な国で、どう死ねって言うんですか。この国は生きる事よりも死ぬ事の方が難しい。幕乃宮学園には確かに日本中から天才奇才が集められていますが所詮は子ども。確かに特高警察の様な超法規的な機関はありますが無能なやつらばかりだ。俺が前にいたモスクワやワシントンと比べればイージーすぎて天国みたいなもんですよ。丁度良いバカンスだ。正直、私には役不足ですよ。この任務は」
「役不足、か。正しい使い方だな。最近は誤った意味で使う日本人も多いが……まぁどうでも良い話か」
 そんなを会話を行い、俺は上司とは別々の出入り口からファーストフード店を出た。それが俺とその上司の最後の接触である。
 そう、俺は心のどこか舐めていたのだ。特高警察と他国の同業者である諜報員だけを警戒しておけば問題ない。そう考えていた。しかし本当に危険で、警戒すべきだったものは、特高警察でも他国の諜報員でもなく、この幕乃宮学園に在籍している子どもだった。



さちさん受賞おめでとうございます。
たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

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